報道機関 | 毎日新聞【地方版】 |
見出し | 26年冬季五輪:札幌市、招致表明 市長「機は熟した」 財政負担理解求め /北海道 |
配信日 | 2014年11月28日 |
http://sportsspecial.mainichi.jp/news/20141128ddlk01050226000c.html
◆内容◆
2026年冬季五輪・パラリンピックの招致を正式表明した札幌市の上田文雄市長は27日、715億円と試算した市の財政負担について「現在の財政状況を鑑みるならば決して負担できないものではない」と理解を求めた。ただ、これまでの五輪では開催費用は試算より膨らむことが多く、市は費用圧縮の努力とともに市民への丁寧な説明が求められる。【江連能弘、立松敏幸】
1972年に冬季五輪を開催した札幌市は、84年の冬季大会招致でサラエボに小差で敗れた。05年には20年夏季大会招致の市民アンケートを行ったものの、賛成33・3%、反対35・3%と拮抗(きっこう)し、見送った経緯がある。上田市長は今回、「開催の夢に進もうとする札幌市民の機運は醸成された。まさに機は熟した」と語った。
市は五輪の経済波及効果を全国で1兆497億円、道内で7737億円、札幌市で5404億円と算出。一方、開催費用は4045億円と見積もった。市民アンケートでは費用を上回る経済効果を示したものの、半数近くが財政負担を関心事に挙げている。
22年大会は立候補した都市が続々と撤退し、当初、最有力と見られたオスロは重い財政負担のために手を下ろした。20年東京夏季五輪・パラリンピックを巡っては、都が新設・改修する施設の総額が当初見積もりの1538億円から3800億円以上に膨らみ、最近になって計画変更を打ち出している。国際オリンピック委員会(IOC)は現在、開催都市の負担軽減案を練っており、その推移により、現在の計画も大きく変わる可能性がある。
冬季大会は、18年が韓国・平昌(ピョンチャン)、22年はアルマトイ(カザフスタン)と北京が争っている。20年夏季が東京に決まっているため、アジア開催が3大会連続となる。招致に乗り出すかどうかは、日本オリンピック委員会(JOC)の意向にかかってくる。仮に日本が立候補する場合、16年に国内候補地を選定し、17年にIOCに申請するスケジュールとなり、19年に開催地が決まる。
上田市長は来春退任することから、市は新市長の下で招致に向けた庁内体制を整え、会場の選定など計画を進める。26年招致に失敗した場合、30年招致に切り替える考えについて、上田市長は「今のところ、ない。その時の市長が考えるべきだ」と語った。市によると、26年大会はバルセロナ(スペイン)とリノ(米ネバダ州)が立候補の意向を示している。
◇各競技団体から歓迎の声上がる
札幌市内の各競技団体からは、冬季五輪招致を歓迎する声が上がった。
札幌スキー連盟の正木啓三専務理事は「競技人口の増加や施設の改修が期待できる。12年後は今の子供たちが主力になるので、強化に力を入れていきたい」と意気込む。
札幌市では、笠谷幸生選手ら日本ジャンプ陣が表彰台を独占した1972年札幌五輪後に札幌ジャンプ少年団が誕生。当時は100人近い小中学生が所属していたという。その後、減少したが、98年長野五輪ジャンプ団体で船木和喜選手ら道内出身の4人が金メダルを獲得して人気が再燃。女子が増えた現在は30人ほどが所属しており、五輪開催が決まれば更なる増加が見込めるという。
また、新しい競技施設が整備されることへの期待も高い。そり競技は札幌には国際大会を開けるコースがなく、札幌ボブスレー・スケルトン連盟の城田仁・理事長は「コースがないのは致命的。(開催でコースが整備されれば)普及、強化につながる」と話す。
スピードスケートも屋内リンクがなく、札幌で2017年に開催予定の冬季アジア大会ではスピードだけ帯広市で実施する。札幌スケート連盟の佐々木正隆理事長は「札幌に屋内リンクができれば、競技の裾野が広がる」とみている。
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■解説
◇ビジョンを明確に
札幌開催が実現すれば、競技施設も更新され、未来へつながる有形無形の財産となる。一方で財政負担の懸念に加え、招致実現には開催意義を国際的に発信できるかも問われる。
既存の競技施設は新設か改修が必要で、ジャンプ会場を除けば「まだ建物が空中に浮いている状態」(市スポーツ部企画事業課)。会場選定は容易ではない上、アルペンスキーの滑降は札幌市内のスキー場では標高差が基準を満たしていない。富良野市や倶知安町など周辺自治体との協力が必要になる可能性が高い。
「五輪後」も大きな課題だ。現在の見積もりでは、競技施設だけで維持管理費は年40億円となる見通し。IOC改革の推移にもよるが、五輪開催基準を満たす施設をそのままの規模で維持することは難しく、継続的な国際大会の誘致なども不可欠になる。選手村やメディアセンターなどは公営住宅、商業施設などへの転用を想定しているが、実現可能性がなければ、負の遺産となりかねない。
27日の記者会見で26年大会のテーマを問われた上田文雄市長は少し思案した後、「鍛え抜かれた市民力」と答えたが、招致の理念にはなり得ず、市民にも伝わりにくいだろう。対外的な理念はもとより、五輪後も見据えたビジョンを明確にしなければ、招致が足元から揺らぎかねない。【江連能弘】
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◇札幌市の冬季五輪招致の流れ◇
1972年 2月 アジア初の冬季五輪となる札幌五輪開催
86年 3月 札幌市で第1回冬季アジア大会開催(90年には第2回大会も開催)
98年 2月 長野冬季五輪開催
2006年 2月 上田文雄市長が夏季五輪招致見送りを表明
13年 9月25日 上田市長が市議会で冬季五輪招致のための調査費計上を表明
14年 9月25日 市が五輪開催経費などの試算を公表
10月 市が五輪招致の是非を問う市民アンケートを実施
11月 6日 市議会が五輪招致を目指す決議案を可決
12日 札幌商工会議所が招致を求める要望書を上田市長に提出
17日 市が市民アンケートの結果を公表。賛成派が約67%に
27日 上田市長が市議会で五輪招致を表明
16年 日本オリンピック委員会(JOC)が国内立候補都市を選定
17年 2月 札幌、帯広市で第8回冬季アジア大会開催
18年 2月 韓国・平昌で冬季五輪開催
19年 国際オリンピック委員会(IOC)総会で26年の開催都市が決定