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11/11 羽生結弦の事故を教訓に、今すべきこととは?

(2014-11-11)

報道機関

Sportive

見出し

羽生結弦の事故を教訓に、今すべきこととは?

発行日

20141111日 

http://sportiva.shueisha.co.jp/clm/othersports/2014/11/11/post_416/

◆内容◆ 取材・文:折山淑美

フィギュアスケート・グランプリシリーズの中国大会、男子フリー最終滑走組の6分間練習で、そのアクシデントは起こった。

 ジャンプを跳ぶためにターンをしながら滑っていた羽生結弦が、同じくジャンプの準備動作をしながら滑っていたハン・ヤン(中国)と衝突。羽生の頭部とハンの顎が激突して両者とも氷の上に崩れ落ちた。

 なかなか動こうとしないふたり。一瞬の出来事に悲鳴が上がった後、会場は静まり返った。急遽練習が中断されて選手がリンクから上がると、ハンはフラフラしながらリンクから出て、再び倒れ込んでしまった。しばらく動けないまま氷上に倒れ込んでいた羽生も、救護の係員が駆けつけて担架が運び込まれようとすると立ち上がり、リンクの外に出た。見ている者の誰もが、ふたりとも棄権するのだろうかと考えた。

かつて2010年のGPファイナルで、小塚崇彦と髙橋大輔が練習中に衝突するアクシデントがあった。今回は、そのときよりも互いにスピードが出た状態での正面からの衝突。日本スケート連盟の小林芳子フィギュア強化部長は「右耳上と顎から出血していただけではなく、鳩尾(みぞおち)も打撲していた。足も負傷していたようだったので、無理して出場することはないと思った」という。

 だが、アメリカのチームドクターに応急処置と簡単な検査をしてもらった後、ブライアン・オーサーコーチと羽生が話し合い、本人の意思で出場することになった。

 オーサーは「今はヒーローになる時ではないと結弦に言い聞かせたが、試合に出るという彼の決意は固かった。彼の目つきを見て大丈夫だと思い、彼に判断をゆだねた」と話す。

 再開された6分間練習に途中から加わった羽生は、トリプルアクセル+3回転トーループを決めて会場から拍手をもらった。だが4回転トーループでは手をつき、4回転サルコウは転倒。リンクから上がる時には足を引きずってヨロヨロとつらそうに歩く状態で、ダメージが残っていることは明白だった。

第5滑走者として登場した羽生の演技内容は厳しいものになった。最初の4回転サルコウと続く4回転トーループで転倒。続く3回転フリップはキッチリと決めて、スピンとステップはスピードを抑えて丁寧にこなし、後半に入ると最初の4回転トーループ+2回転トーループを3回転ルッツ+2回転トーループに変更。確実性を優先する冷静さを見せたが、気力も体力も尽きかけていた。

 トリプルアクセルで転倒した後のトリプルアクセル+1回転ループ+3回転サルコウは意地で決めたものの、その後は3回転ループと3回転ルッツで転倒。スピードもガクンと落ちてしまった。それでも何とか4分半のフリーを滑り切って、最後はフラフラになってリンクから上がった羽生。その姿から、ギリギリの状態だったことがうかがえた。

「ペナルティーをもらってもいいからキス&クライとメディア対応はスキップしようとブライアンと話し合って決めていたんです。でも、羽生選手はいつもどおりキス&クライの方に向かったので……」と小林部長は、羽生が自らの意思で競技後に行動したと説明した。

 そして、キス&クライで得点を聞いた羽生は、ボロボロと涙を流した。

得点は転倒による5点の減点がありながらも15460点。合計では23755点で、マキシム・コフトン(ロシア)を残した時点でトップに立った。だが、コフトンがSPに続いてフリーでも羽生を上回り、合計を24334点にして優勝。羽生は2位という結果になった。

 羽生の得点の内訳は、成功した3つのジャンプはきれいに決めて、転倒したジャンプもループ以外は完全に回ったと判断されており、妥当な評価。演技構成点は5項目全てが8点台で全体でも最高の8402点だった。それは、予定した演技をしっかりこなせば合計で300点近い得点が獲得できる羽生と、その他の選手の実力差がかなりあるということの表れともいえる。

羽生はシーズン前から「今シーズンこそが、自分の真価が問われる時。『さすが五輪王者』と誰からも思ってもらえるような演技をすることで、平昌(ピョンチャン)五輪へ向けての自分の評価も固まると思う。だからこそタイトルにはこだわりたい」と話していた。

 SP、フリーともにこれまで以上に難しい構成にしたことも、新たな進化への道筋を今シーズンからつけておきたいという思いから。だからこそ、グランプリファイナル進出に挑戦することは、彼にとって譲ることのできないものだったのだろう。そんな強い思いは、ふたつの4回転ジャンプにも表れていた。

 試合後、羽生は再びアメリカのチームドクターを中心にしたスタッフの治療を受け、顎を7針縫い、頭を3針縫った。そしてそのままホテルへ戻り、9日午前には日本へ向けて出発。帰国後に精密検査を受け、全治2、3週間と診断された。
※頭部挫創、下顎挫創、腹部挫傷、左大腿挫傷、右足関節捻挫

 1128日からのNHK杯出場は厳しい状況だが、まだ19歳の羽生にとって、競技人生がこの先まだまだ続くことを考慮すれば、ここで無理をする必要はまったくないだろう。

 小林部長は、試合後にこう語った。

「ショート(SP)をミスして悔しい気持ちと、ベストの演技をしたいという思いもあって、羽生選手はリンクへ上がっていたと思います。最初からスピードが出ていたので、『これは行ける!』と思った矢先のアクシデントでした。6分間練習の仕上がりは演技に影響するのでみんな気持ちが入っているが、周りを注意して見ているもの。それでも、死角になるところもあるだろうし、近年の男子はレベルが上がってスピードが出ているので、6人は多過ぎる気もする」

 今回、あらためて認識させられたのが、フィギュアスケートは大きなケガにつながることもあり得る競技ということだ。男子は複数の4回転ジャンプが必須になったうえに、高得点を取るためには技と技のつなぎ区間でも休む間がないほど動作を入れなければいけなくなってきた。

もともと瞬発力と持久力の両方が必要なハードな競技なうえに、難しさが増した今は、ひとりで演技をしていても、ジャンプの失敗や転倒で重大な事故が起きる危険性は以前よりも高くなっている。

 また、6分間練習のあり方の再検討などは国際スケート連盟が行なうことだが、チームドクター帯同の義務化などは各国連盟がやるべきことだろう。今回の羽生の場合、日本チームに専属ドクターが帯同していたなら、その場で出場が妥当かどうかを医学的見地から判断し、ドクターの権限で強制的に出場をストップさせていた可能性もある。

 日本の場合、五輪が終わると補助金が減少してスタッフを充実させることが難しいのが現状だが、選手の健康や安全を優先させるのは、競技団体の義務でもある。今回のようなアクシデントに迅速に対応できる体制づくりと、再発防止のために、フィギュアスケート界がやるべきことはたくさんある。それは他の競技団体も他山の石とすべきだろう。

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