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11/19 タカハシという一等星

(2014-11-19)

報道機関

時事通信

見出し

タカハシという一等星

発行日

20141119日 

http://www.jiji.com/jc/sports-column?p=0088-01

◆内容◆ 時事通信社 運動部次長 冨田 政裕

フィギュアスケートのグランプリシリーズ、中国杯(11月、上海)で、羽生結弦選手がけがを押して強行出場したことが議論を呼んだ。フリー演技の直前練習で滑走中に他の選手と激しく衝突して転倒。頭とあごを切り、太ももや足首も痛めた。後日の検査で脳に異常が見つからなかったのは不幸中の幸いだが、もしも脳がダメージを受けていたとしたら、競技を続けたことで大変な事態を招いた可能性もある。

 今季は初戦となる予定だった10月のフィンランディア杯を腰痛のため欠場。ソチ五輪と世界選手権の金メダリストとして、上海では雄姿を見せなければという責任感があったのだろう。ショートプログラムで2位にとどまっていただけに、何としてもフリーで本来の軌道に乗りたいという焦燥感もあったかもしれない。

 何度も転倒しながら滑り切った闘志には拍手を送りたいが、やはり焦らず慎重な対応を取るべきケースだったと思う。けがをしても格闘技のような対人競技なら、痛みに耐えて目の前の戦いを乗り切ればそれですむ。しかし今回は頭も打っていた。100分の何秒というタイミングのずれや、小さなバランスの乱れに戦いは左右される。あちこち痛めた精密機械が正常に作動するはずはない。さらに採点競技は可能な限り、出場者が一定の条件下で競うことが望ましい。痛々しく包帯を巻いた選手の演技が、公平かつ適正に採点されるのかという素朴な疑問も湧いてくる。他の競技者にも少なからず動揺を与えたはずである。

 もう一つ言えば、この競技は芸術性や優雅さを競うものでもあるから、選手は最後まで涼やかなたたずまいを保つことも必要なのではないか。シンクロナイズドスイミングの選手が酸欠にあえぎながらも笑みを絶やさないのと同じで、「フィギュアスケート道」なるものがあれば、最終的にはその一点が問われるように思う。

 羽生選手がけがをした直後、ブライアン・オーサー・コーチは「今はヒーローになる時ではない。自分の体を心配すべきだ」と言って滑走をやめさせようとした。大会がクライマックスを迎える直前の事故。痛んだ肉体のケアはもちろんのこと、氷上に鮮血が散ったショッキングな空気を残さない配慮もやはり必要だった。

今回の羽生選手のように、ひたすら前へ突き進む若者の力には、もちろん大きな価値がある。しかし、必ずしもヒロイズムや栄冠だけが全てではない。シーズン開幕を前に28歳の高橋大輔選手が現役引退を表明し、日本だけでなく海外でも惜しまれる様子を見ながらそう思った。

 

 高橋選手は今年、自身の集大成として2月のソチ五輪に臨み、3月の世界選手権(さいたま市)までは出場する考えだった。ところが右膝を痛めた影響でソチ五輪は6位に終わり、世界選手権も出場を断念している。「これが最後」と心に決めた演技をファンに見せられずに終わったのである。「やりきった」という気持ちが持てないのに、「もし現役を続けた場合、頑張れるのか」と自問してみても、「今の自分では不可能」という答えしか出なかったという。日本のエースとして長く活躍した功労者だけに、気の毒な舞台の降り方だった。

 それでもどこかうまく行かない部分があったり、華やかな終わり方にこだわらなかったりするのが、この人らしさなのかもしれない。 スターらしからぬ大スター。昨年12月に全日本選手権最終日を観戦したとき、高橋選手に対してそんなイメージを抱いた。チケットを持っていた娘が体調を崩したため、たまたま仕事が休みだった私が代わりにさいたまスーパーアリーナに出掛けたのだ。久々に生のスポーツ観戦をした私は、双眼鏡であちこち見回し、スタンド上部の関係者席で高橋選手が小塚崇彦選手と並んで女子フリーの競技を観戦している姿を見つけた。数時間後にはソチ五輪の代表が発表されるのだが、ライバルというよりは友人と一緒にいるときの穏やかな顔だった。彼は総合5位の成績で終わっていたため、五輪切符は難しいと観念していたのだろう。

 ファンも不安だったはず。だから全競技終了後に行われたソチ五輪代表発表で、最後に高橋選手の名前がアナウンスされた瞬間、満場の観客から大歓声が湧き起った。女性ばかりかと思っていた観客席の中には、若者や年輩の男性が立ち上がって祝福の拍手を贈る姿も見られた。

ソチ五輪代表としてマイクを握ってあいさつした高橋選手は声を震わせ、時折言葉に詰まりながらこう言った。「オリンピックは正直、きのうまでは絶望していた。今までのような生ぬるい自分ではなく、追い込んで追い込んで、日本代表として恥ずかしくない演技をしたい」

 高橋選手は2010年バンクーバー五輪で銅メダルを獲得し、世界チャンピオンにも輝いた。右膝の大けがを乗り越えるまでの苦労と努力はよく知られている。この全日本選手権の前にも右膝をひどく痛めていた。だから「生ぬるい自分」という厳しい言葉を使ったことには驚かされた。

 世界最高といわれるスケーティング技術と表現力を持ちながら、競技人生の起伏は大きかった。たびたび逆風に遭い、自信の帆をいっぱいに膨らませて進むことは案外少なかったのではないか。そんな彼が不運をありのままに受け止めて一歩一歩進む姿を、多くのファンがハラハラしながら、あるいは不確かな日常に重ね合わせて見守ってきたのだと思う。勝利者として輝き続けることは素晴らしい。しかし、時には苦しげに明滅しながら人々を柔らかに照らす星の光には味がある。

201411194.png

バンクーバー五輪のフリー演技を終え、歓声に応える高橋大輔

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